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東京高等裁判所 昭和60年(行コ)15号 判決 1986年7月23日

東京都杉並区南萩窪二丁目一七号

控訴人

宮下雄幸

右訴訟代理人弁護士

高木義明

東京都杉並区天沼三丁目一九番一四号

被控訴人

萩窪税務署長

斉藤政雄

右指定代理人

岩田好二

三浦道隆

和田千尋

後藤一嘉

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が控訴人に対し、昭和五三年三月九日付でした控訴人の昭和四九年分所得税についての更正のうち、課税所得金額四八一万円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定を取り消す。

3  被控訴人が控訴人に対し、昭和五三年三月九日付でした控訴人の昭和五一年分所得税についての更正(ただし、異議決定により一部取り残された後のもの)のうち、課税所得金額二〇二〇万七〇〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却

第二当事者の主張及び証拠

原判決事実摘示及び当審証拠目録記載のとおりである。

ただし、次のとおり訂正付加する。

(訂正)

1  原判決七枚目表八行目の「〇円」を「六六〇〇円」に、同裏一行目の「二一一万四六〇〇円」を「二一二万四六〇〇円」と訂正する。

2  同添付別表一及び二「申告納税額」の次に「又は賦課税額」を加える。

(付加)

(控訴人の主張)

一  所得税法第一二条は「収益を享受する者を収益の帰属者とする」趣旨を定め、実質所得者課税の原則を示している。本件において、原判決添付目録(4)の土地(換地前の土地(5)、いわゆる川越関係の土地、以下同)については、その収益の八割を訴外株式会社内外工機(以下、単に内外工機という)が享受しており、控訴人は、わずかにその二割しか享受していない。従って、「川越関係の収益」については、その二割のみが控訴人に帰属するものとして、所得税法の適用がなされるべきところ、原判決は、その全部が控訴人に帰属するものと認定しており同法第一二条の解釈を誤っている。

二  「川越関係の土地」の取得費として、更に、次の各支払金員も同土地入手に関する取得費として認められるべきである。形式的には「川越関係の土地」関係の交換差金二、〇〇〇万円とは別のものとして訴外野中重男の利益のために支払われた次の金員

1 原判決が「訴外野中が訴外塚本にわたす金」と認定している金五〇〇万円(領収書の日付は昭和四四年二月一〇日。以下、「訴外塚本関係の金員」という。)

2 訴外小柳進所有名義で登記されたことのある土地及び建物(原判決添付目録(七)の物件)に関して支払われた金一、五〇〇万円。

三  以上の見解を基礎とすれば、昭和四九年分の分離短期譲渡所得金額は、次のとおりとなる。

1 譲渡収入金額の総合計金額 金 九、五八一万八、三八二円(A)

2 「川越の土地」の譲渡収入金額 金 二、五〇〇万円(B)

3 「川越の土地」以外の土地の各取得費の合計金額 金 六、五五二万五、九三〇円(C)

4 「川越の土地」の共通取得費の総合計金額 金 七、三〇〇万円

(内訳)

交換土地取得費 金 二、〇〇〇万円

交換差金 金 二、〇〇〇万円

弁護士報酬金 金 三〇〇万円

訴外塚本関係の金員 金 五〇〇万円

訴外小柳関係の金員 金 一、五〇〇万円

訴外石川関係の金員 金 一、〇〇〇万円

5 借地権負担部分一八九。五三平方メートルの共通取得費(原判決掲示の算式と同種の算式により算定、以下同) 金 一、〇六二万〇、八〇七円

6 控訴人が昭和四九年中に売却した土地(四)の(6)及び(7)(借地権負担部分の一部四三・五八平方メートル)の取得費 金 二四四万二、一一八円(D)

7 司法書士への支払金額 金 一三万八三五〇円

右金員のうち四三・五八平方メートルに対応する金額 金 一万一、五一七円(E)

8 以上外部へ支払った「川越の土地」の所得費の合計金額(D+E) 金 二四五万三、六三五円

9 「川越の土地」の譲渡収入金と外部へ支払った「川越の土地」の取得費の合計金額との差額〔B-{D+E}〕 金 二、二五四万六、三六五円

10 右9で算出された金額の二割、即ち金四五〇万九二七三円が控訴人の所得ということになる。これは、雑所得と認定されるべきであるが、そうでないとしても、昭和四九年分の分離短期譲渡所得は右金額というべきであるが、昭和四九年分更正における分離短期譲渡所得の認定額は、金二、〇一四万六、八五四円であるので、同更正には、控訴人の所得を過大に認定した違法がある。

四 同様に、昭和五一年分の分離短期譲渡所得も次のようになる筈である。

1 譲渡収入金額 金 一億二、七四四万円

2 「川越の土地」の共通取得費の合計金額 金 七、三〇〇万円

3 更地部分三三三・九五平方メートルの共通取得費(原判決掲示の算式と同種の算式により算定、以下同) 金 六、二三七万九、一九三円

4 控訴人が昭和五一年中に売却した土地(四)の(1)及び(5)(更地部分の一部二一〇・六二平方メートル)の取得費 金 三、九三四万二、一三三円

5 換地処分に伴う清算金 金 二八万五、一九四円

6 譲渡部分二一〇・六二平方メートルの取得費となる清算金の額 金 二一万五、三二二円

7 登録免許税のうち二一〇・六二平方メートルに対応する金額 金 一一万三、七〇二円

8 不動産所得税のうち二一〇・六二平方メートルに対応する金額 金 六万八、二二一円

9 武蔵野信用金庫に支払った借入金利息三、二七〇万五、八六一円の一部 金 二、七九四万七、四六八円

10 譲渡費用合計金額 金 二六〇万七、二〇〇円

(内訳)

司法書士に支払った登記費用 金 三万八、四〇〇円

仲買手数料 金 二五四万八、八〇〇円

売買契約書貼付収入印紙代金 金 二万円

11 右4、6、7、8、9、10の合計金額 金 七、〇二九万四、〇四六円

12 譲渡収入金額一億二七四四万円と右11記載金額の差額 金 五、七一四万五、九五四円

13 右12の金額の二割、すなわち金一、一四二万九、一九一円が譲渡収入金額一億二、七四四万円のうちの控訴人の昭和五一年分の分離短期譲渡所得であるということになる。しかして、昭和五一年分更正における分離短期譲渡所得の認定額は金八、七八八万二、九三八円であるので、同更正には、控訴人の所得を過大に認定した違法がある。

(控訴人の主張)

一 控訴人の主張一を争う。控訴人は、原審において、当初は、原判決添付別紙物件目録(一)ないし(四)の土地の所有権は、控訴人と内外工機の共有(持分はそれぞれ一〇分の二、一〇分の八)であった旨主張していたが、その後にその主張を撤回して譲渡した土地が控訴人の単独所有であることを認めたうえ、被控訴人の主張する右各譲渡に係る収入金額を認めるに至ったものであり、控訴人がその所有する各物件を譲渡して原判決別表三の各譲渡収入金額を得たことは当事者間に争いがなく、この点については、自白が成立しており、控訴人の右主張は自白の撤回に当るから許されない。

また、控訴人の右主張が、川越の土地の実質上の所有者が内外工機であって右の資産から生ずる収益を享受しているのであり、その譲渡の収益の八割が同会社に帰属したとの主張を今回新たにするというのであれば、明らかに時機におくれた主張であるから、民訴法一三九条一項により却下されるべきである。

二 控訴人の主張二、三、四を全て争う。

理由

一  当裁判所は控訴人の本訴請求は棄却すべきものと判断する。

その理由は原判決の理由と同一であるからこれを引用する。

ただし次のとおり訂正付加する。

(訂正)

1  原判決二四枚目末行の「三一日」を「三日」と訂正する。

2  同三五枚目裏一〇行目の「となるところ」を「となるが、被控訴人主張の取得費は右認定の取得費を上廻る六八八五万五九五二円であり、これを控除すると右所得金額は二六九六万二四三〇円となるところ、」と訂正する。

(付加)

1  控訴人は、原判決添付別紙物件目録(四)の土地(いわゆる控訴人のいう「川越関係の土地」)は、その収益の八割は訴外株式会社内外工機が享受しているから、それら物件の譲渡に伴う収益の全てが控訴人に帰属するものとしてなされた本件各更正は所得税法第一二条の解釈を誤ったものである旨主張する。

ところで、控訴人は右主張は時機に後れたもので却下されるべきであると主張するのでこの点について検討する。控訴審において当事者の提出した攻撃防禦方法が時機に後れたものであるか否かは第一審以来の訴訟経過を通観してこれを判断するべきところ、本件記録によれば、控訴人は、原審第一回口頭弁論期日(昭和五五年四月一八日)において、訴状を陳述して、本件係争各年において各譲渡に係る物件は、名義上は控訴人名義であったが実質上の所有権は、控訴人と訴外内外工機との共有(持分は、控訴人二割、内外工機八割)である旨主張していたところ、原審第一五回口頭弁論期日(昭和五七年四月二八日)において、従前の主張を撤回し、(昭和五七年四月二三日付書面)、譲渡にかかる物件は控訴人の単独所有であることを前提とした主張に改めているのであり、右は、本件各譲渡物件に基づく収益が控訴人に法律上帰属するものであることを認めていたことは明白である。従って、当審第四回口頭弁論期日(昭和六〇年一一月一三日)における前記の主張は、既に原審の右の段階において主張し得たものであり、又、主張すべきものであったのである。(因みに、両主張事実は両立し得るものであるから、自白の撤回には当たらない)。

右の一連の経過に鑑みると、控訴人の前記主張は、少くとも重大な過失により時機に後れて提出されたものといわざるを得ない(なお、訴状における控訴人の当初の主張はその趣旨が必ずしも明瞭ではないが、当審における新主張と同旨であるとすれば控訴人は右主張を撤回すべきではなかったのであり、これを当審において再び主張するのは重大な過失により時機に後れて提出したものというべきである。)。しかし、控訴人は当審において証拠目録記載の書証を提出したのみで更に人証を以て立証しようとはせず、被控訴人もこれに対する反証を提出しないので、未だこれがため訴訟の完結を遅延せしめるものということはできない。従って、控訴人の右の主張が民訴法一三九条一項により却下されるべきであるとの被控訴人の主張は採ることができない。

しかし、本件全立証によるも、控訴人の右新主張事実を認めることはできないから、結局、控訴人の右主張は採用し難い。

2  控訴人の当審における主張のうち、その他の点(訴外塚本関係の金員、訴外小柳進所有名義で登記されたことのある土地及び建物に関して支払われた金員、に関する主張)についても失当であることは、原判決説示のとおりである。

二  以上の理由により、原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却する。

訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法九五条八九条適用

(裁判長裁判官 武藤春光 裁判官 菅本宣太郎 裁判官 秋山賢三)

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